1か月
引っ越してきてから1カ月たった。
娘の登校が始まってから1週間。
夏休みの間は苦しかった。
荒ぶる娘にハラハラするあたしもそうだけど。
環境をうつしても、コミュニティーが引っ越し前の場所にある娘も、相当カッカしていただろう。現に理解できない行動が目立っていたし、本人のいらだちも凄かった。
夏休み中は、引っ越し事情で訳が分からないくらい忙しかったのもあったけど。
娘と一日中一緒にいるのが苦しかった。
目が離せないから飛び出されても心配でしょうがなかったけど。
約束している帰宅時間までは、案外家事に集中していられた。
彼氏に手のひらを返されてからの、夏休み終盤。
娘は家から出ようとしなくなって。
ただ一日中動画を眺めていて。
こっちが聞かなくても、強がって見せたり、思い出したように彼氏の酷い言動を訴えてみたり。逆に不自然におし黙ってみたり。
夏休みが終わる前に、一度病院にいったんだけど。
娘は身体の緊張感が一日中続いていて、常に足を突っ張っているような感じになっていたそうで。特に脚が酷くて。触っただけで弾けそうに張っていた。
投稿が始まってからは、劇的な何かはなく。
普通に嫌味を言ってくる子もいて、なんとなく話しかけてくれる子もいて。
娘は慎重に距離をはかっているようだ。
でも、これまでのことを考えれば正解だと思う。
娘が急速に仲良くなる相手は、いつも捕食者だった。
急に距離を詰めてくる相手は、自分にとっての理由があるはず。
無意識でも、何かを探していた。
前の学区では、小学校からの人間関係が破綻していたのに、そこで活動をしなければいけないベースがあった。
それがなくなっただけ、マシっちゃマシだ。
実家にいたころと違って、母親のアタシは娘の事を優先しながら自分のことをやってるから、主導権争いも起こりようがない。帰宅してきた娘は、安心してダラダラしてるんじゃないかと思う。あたしとの間で口論になったりもするけど、役者に数えてないのに意識しなきゃいけない人が皆無なので。あたしと娘の間でだけ、落としどころが見つかればそれでいい。
あとは、これまで癖づけてしまった、感情の動き。
認知の歪み。反射的な切り返し。決まったシチュエションで同じ失敗を繰り返してしまう、回帰。
時間をかけて。
勘違いだったなと。
腑に落ちる時を待たねばならない。
あたしは。
引っ越し当初のメーター振り切ったままのテンションで、手続き無双に毎日の家事、娘への対処。動けていたから、ある日、急にやってきた解離状態というやつに、相当怖い思いをしたし。
睡眠時間がとれない。
就寝は薬があるから、11時には布団に入って寝付きもイイ。
ただ。今までの自分が必要としてきた睡眠時間を考えると少なすぎる。
朝方3時半から4時に必ず目が覚めてしまう。
目が覚めると、大して何も考えずに洗濯を始めるクセがついてしまった。
朝3時間、洗濯機を回しながらコーヒーを飲んで、ぼんやり味噌汁を作る。
掃除機をかけて、床を拭いて。
目の前にある、自分が出来る仕事を、なんとなく終わらせていくと、一日が終わる。
娘が学校に行くようになって。
日中、ひとりで過ごした数日。
最初の3日は、荷物が多くなる買い出しを嫌う娘と一緒だと、買いに行きにくかったものを揃えたり。玄関先によく飛んでくるスズメバチをどうにか撃退しようと忙しくしていた。
昨日と今日。
ひとりで、家にいて、本当にひとりだなって沁みた。
あたしは、どこにもつながっていないって、とても感じた。
実家にいたころ襲われていた狂ってしまいそうな孤独感ではなくて。
かぽん。って。
見えないカプセルに入っているような
そこから、外の世界を眺めているような。
仕事。
最終的になにかしら仕事しなきゃいけないし、そこから繋がっていくものはあるだろうけど。でも正直、今の自分が、どんな刺激に、どんな反応を反射的にとるのか。大丈夫と、言い切れない。
先日友達が、ワンクッションとして運転免許をとりに教習所へ通うのはどうかと言っていた。お金のことを母親に言いたくない気持ちがムクムクしている。
でも、車で移動できるとなれば、通勤できる範囲は今までじゃ考えられないくらい広がる。冬も娘をのせて銭湯に行ける。
それはそれとして。
あたしが出来ること。
誰かと、どこかと繋がらなければなあって方向に矢印が向いていたんだけど。
あたしが出来ること。
絵を。
描こうかな。
頑張らなくていいから。
出来ること。
もはや今のアタシは、全く絵を描かない人からはお上手ですね!プロですか?とか言われるけど。手練れた方々からは見向きもされない。
絵描きの激戦区じゃ目に留まらないけど。
いわば消費者になる絵を描かない人からは描ける人の技術がある。
拘りだとか、表現したいものだとか、そういうことじゃなく。
ここにカットイラストがあったらイイノニナーと思っても自分で描けないような人を相手に。自分の出来ることを提供してお金がもらえないかなあ。と。
あたしの絵を描く人生は、漫画化への道から始まった。
無理だと悟っても、諦めたと筆を折っても、発信者の立ち位置から動けなかった。
でも他の事に使えたら。この35年以上細々と繋げてきた描くということ。
ラノベの表紙を飾れるようなもんじゃなくても、個展を開くような芸術的なもんじゃなくても、大半に「かわいいー」と言われるグッズ向きじゃなくても。
描けるにゃ描けるのだ。
公募とかみてみたらいいのかな
あと、今までどうやってもなぞれなかった、イラストレーターになるための手段。仕事を取るためのノウハウ。何も考えず。ひとつひとつ触ってみるというのはどうだろう
根本的に絵を描いてお金をもらう事に、罪悪感やお門違い感が植え込まれている。
なぜなら、評価される素晴らしい作品でなければ金にならないと思い込んできたから。
元々漫画家になるために、コンテストに投稿して高順位を狙っていくっていう基準がスタートだった。そのうえ、ネットのおかげでSNSに上げたイラストを評価されて仕事が舞い込む事例も少なくない、今の時代。
評価されるということは、拡散してもらえるという事で。
拡散された分、目の前にいない、自分じゃ知り得ない買い手さんに届く可能性が高くなる。
認めてもらいたいというよりは、自分じゃ思いもよらない場所まで、作品を届けてもらえたら。可能性が出てくる。
だから、上手い人が仕事を貰える確率は、絶対に高くなる。が。
運。人との繋がり。そういう面は確実に作用する。
自分が今まで、どうしてきたのか。
人との繋がりにおびえてきた。
別に壁を作ってきたつもりはないけど、交流することに意欲がわかない。
礼節やトラブルにならないようという神経は凄く使ってきたけど。
熱く語り合うとか、そういう交流の根本になる部分が軸になれないできた。
だから、あたしは、失礼しないように、そっとしておきたくなる人になりがちなんだろう。
自分は、気楽に接しては貰えない。
商品を棚に並べて消費者が選んで購入するシステムじゃないSNSでの営業は、日常のやりとりそのものが営業といって間違いない。
だから、あたしのイラストは相手にされない。
似たようなモチーフが好きな人と、そのことについてだけでも、はしゃいで語り合えたら。好ましく感じたと、ひとつ先まで拡散してくれるだろう。でもあたし、それがどうしても出来ない。
評価=価値。
だけど、市場って基本「困った」を埋めるものを「便利」として買う。
あったらイイナーを叶えるものを売買するのだ。
なにか、糸口がつかめるといいんだけど
でも、常識的に就職について考えなきゃいかんよなと思ってはいるものの
今やっと死地から脱出してきたって状態のあたしは、正直よくわからない。
母に「いつまでも、援助するのはこっちも苦しいからね」と遠回しに仕事しろと言われた。
昨日電話があった元旦那にも「仕事は?今になって不安になったんじゃないの?」って言われた。
今まで恵まれすぎてたからなー
そう言われて。
胃の腑が、ひゅ。となった。
恵まれすぎてる環境で、あたしは死ぬ思いをしたのか。
元旦那は、やっぱり分からない人だなと思ったし。
人の立場になってみるとか、そういう想像力が欠落してるくせに、偉そうな事だけは言いたいんだよなって。呆れたし。嫌いだと思った。
しかも、娘と話してる電話口でまで「ママ、仕事探してるのか?」と聞いて、娘に「今外でも働いたら、ママ過労死しちゃうよ」と怒られていた。
勉強の事も、これから頑張らないと駄目だなと、何度も繰り返して、娘を傷つけた。
学校に行けなかった状況をなんとかしようと、転校までした。
工夫して、努力して、学校に行くというラインになんとか軌道修正したのだ。
もう嫌だと、電話をあたしによこした娘に聞こえるように。
あたしたちは、いのちだいじにモードでやってくから。
生きてれば、なんか頑張って見ようかなって思える日がいつか来るし。
生きてさえいれば、どんな可能性もゼロにはならないから。
生きてるだけで儲けもの。
成績だとか、今転校してきたばっかりの進学校で、良くないからって、なんの物差しになるの。あたしたちはいいの。意欲的になれる時がくるまで「いのちだいじに」で行くの。
さすがに、なんか温度差を感じたのか「まあ、転校するってだけでも、すげーよな」と慌てて言い足していたけど。
自分が、今、どうするべきなのか。
社会人として、就職するのが普通かもしれないけど。
自分でも予測がつかない不安要素多すぎて。何より、よくわからない。
ホント、カプセルの中に、一人で、カポンと。入っているような。
まるで、社会を、パノラマで感じているような。
普通のこととして、焦って就職活動した方が良いのか。
カプセルの中にいながらでも、自分が出来ることを、確認するように、絵を描いてみたらいいのか。全然、わからない。
わからないけど、毎日は穏やかだ。
プラスチックの壁に囲まれたみたいに。
世界の音が遠く聞こえる。
あたしは今、それで安心している。
心の奥底では、このままじゃ駄目だと思っていて、交感神経がおかしくなっているのかもしれないけど。
あたしに、仕事まだしなくていいでしょ
そう言った人は、友達と娘。
忘れないでおこう