メモ

避難所。

ケアをするひと

あれから。


自分軸では「仕事を焦って探すのはやめていいのか」という議題が、脳内で駐屯したまま日常を送ってきた。


娘の方は、大きな学校行事には出なくて当然という姿勢が見られていて。
4日間の中体連、学校の特活室に1時間だけ登校して帰宅する毎日。
出られないのは仕方がない。
だけど、それが当然で、帰宅してから動画サイトを延々流しているのを見ると、正直焦燥感が湧いてしまって大変だった。
娘の態度からうかがえる、学校での疲労感や苛立ちは、かなり熱量を感じるけど。
口頭で話すことが少なくなくなった。
自分の知らない出来事で生まれた負の感情を、想像しながら受け止めるのは、とても苦しかった。


毎日毎日、これでいいのかわからなかった。
ご飯を作っている場合なのか。
洗濯をしている場合なのか。
アイロンをかけている場合なのか。
今月締め切りのカットイラストを描いている場合なのか。
何かしなければいけないんじゃないか。
でも、何をすればいいのか。
ハラハラ、ハラハラ、その時自分がやっている作業が上の空で。
だけど、こんなんだから、休まなければいけないって言われてしまうんだろうとも思った。




昨日は、病院に行く日だった。



早退してくる娘を待っていたら、母親がきた。



実家を出て10ヶ月。

初めて私たちの家にきた。


災害時の非常食を詰めたリュックを、2つかついで。


父は、どんどん記憶の改竄がひどくなって、自分が言ったこと、やったことは、全部私たちの妄想だと怒り狂っているそうだ。


たった30分。

オンボロアパートにいた母親は、相変わらずの母親で。


泣いて近況を説明する私の頭を撫でて、ママのメンコだよ。と、嬉しそうにしていた。



母親が帰って、娘が帰宅してから、病院に行った。




主治医は開口一番、お仕事はどうなりましたか?と聞いて来て。
私は、それを説明するのに、とても時間が要った。
主治医が望む結果ではないのを知っているからだ。
相手が望まないと分かっていることを告げるのは、とても怖い事で、私は震えていたし、言葉もなかなか出てこない。


説明をやっと終えると
「今回の職場は、社長がヘタなやり方をしたっていうだけの話ですね。
 また次を早く探さなきゃですねえ」
と、斜めに笑われ。
私は、馬鹿にされたような、見下されたような。
責められたような気持でいっぱいになった。


仕事を探すことについて、自分が今迷っていることを、話した方が良いのかどうかグルグルしていたんだけど。
前回の診察で話して「意味ないのに」と、馬鹿にしたように笑われた、無料カウンセリングの話を、主治医は一切聞いてこなかった。
だから、言う機会が来なかったし、言いたくない気持ちになった。
頭で、カウンセリングの時、言って貰ったことを反芻した。
お医者さんが相手でも、言われて嫌だと思うことも沢山あるから、そういう時は、体調不良についてのお薬をしっかり出してもらう事を目的にお話すればいいですよって言ってくれた。


多分、今までで一番。
この先生に話しても無駄だろうということを、言わないよう、気を付けて、体調について困っている事を、出来るだけ端的に、伝えた。
必然的に、言葉は少なくなって。
私が伝えた短い報告に、主治医が困ったように笑ってタップリ間をおいて「で?」と聞き返す。それが繰り返された。


話したい。という欲求は湧いてこなかった。
むしろ、引きずり出されたら、また傷つくことを言われるのが怖かった。
怖くて、震えながら、意味もなく小首をかしげて、うーん、そうですねえ…と、やりすごしている間、涙が何度かこぼれた。



主治医は「どうしても緊張感が強くなってしまうんですねえ」と言って、薬を変えてみることにした。



娘も診察が終わって、帰る道中。
ファーストフードを食べた。


食べながら娘が「自分がしんどいって伝えたことを、ソレはこういう感じになるから症状として出るんですよーって言うけどさ、それに対してどうすれば治るのか教えてくれないんだよね」と、診察時の不満を言い出した。


同じような事思うよなあーと、私はちょっとおかしくなって。
同意を示して、お互い笑って愚痴り合った。


話しているうちに、最近態度で示すことがメインとなっていた学校での悲しいお知らせが、口から説明され出して。
それについて、あーだこーだと喋り合った。


実家での事を知らない人たちに、それを背負ってきた事情抜きで、求められる事が難しい。そうやって、自分たちはただただ転がり落ちて、奈落に落ちていくしかないのか。


どうしてもいやなら、どこかで絶壁に爪を立てて、歯を食いしばるしかないこと。
それが、私たちにとって、どれだけ理不尽な苦労だという怒りを抱えさせているのかということ。







そうやって、話しているうちに。
ポロッと。口から出た。




ママね、お仕事は、焦らないで、ゆっくり、探すよ。



娘が穏やかに「うん。いいと思う」と言った時、少し驚いている自分に戸惑った。
私は、娘も自分を責めていると、漠然と感じていた。




カウンセラーが言ってくれたことと、主治医がいうこととの違い。
娘が学校で利用しているスクールカウンセラーへの憤り。
そういうものを持ち寄って、話していて、コロンと、私の中で結論がはじき出された。




ママは、今思ったよ。
私がこのあいだ、お試しパートをしてみようって動けたのってさ。
たまたま就職相談しにいったハロワの職員さんがさ、事情聴いて「あんた…そりゃあ無理よー。仕事どころじゃないわー」って。ママの今現在の状態を受け止めてくれたからなんだと思う。


だってさ、大変だーって誰かに伝えた時「そりゃ大変だわ!」って受け止めてもらえたら「そうなんだよおおお」って、うわーんって。自分の中の「大変だー」と、周囲の自分の情報も「大変だわこりゃ」が一致して、食い違いが無いから、自分が大変だーって認めて受け入れることができるじゃん。


そこ、スタートじゃない?
自分が辛いって泣いてるのに、周囲に「大したことない」とか「そんなことより」とか思われてそうだなんて感じてたらさ、大変だって認めること、できなくない?


自分の現実を受け入れることが出来なかったらさ、この先どうしようかって、動くことできなくない?だって、現状があやふやなのに、次どこに足を出せばいいのか分からなくない?それがどうしても出来ない怖さが勝れば、周囲に辛さを理解してもらうことに躍起になっちゃわない?




自分が、どこに立ってて、どんな状態なのか、何が出来て、何が出来ないのか。
その現状を受け入れないと、動けないんだなって、思った。


だけど、例えば私やあんたに「こうなって欲しい」っていう望みを持っている人。


例えば、あんたにとって。
親である私。
学校の先生。
スクールカウンセラー。


私にとって。
子供である、娘。
付き合いが長くて、これから先も付き合いが続くと思う友人。
親である、ばあば。
ママを治療する立場の、主治医。


そういう立場になると、今現在苦しいと知れば、苦しくない先に、少なからず辿り着いてもらいたいと思うじゃない。だって、立場によって形は違うけど、経過を共にするわけだし。


ママも、よく、あんたや自分が良くなれるようにはどうしたらいいのかって、考えちゃうじゃない。


んで、私たちは、苦しくなるよね。
どうしてわかってくれないのか。
出来ないことを、責められているって、怖くなって、怖い思いをさせられているって、グチャグチャに怒りが溜まるじゃない。



だけど、通りすがりの人ってさ。
苦しく無くなったかもしれない、先にいる私達と関係を考える必要が無い。


ハロワの職員さんが「そりゃ無理だわ!」って言っちゃえたのって、そういうこと。
無理だわ!って、単純な感想で終わって、何の責任もない人だから。


その言葉で、私がどう動くのか、何をするのか、大きな関心も無いの。


だから、ママ、思ったのね。
とっても親しい人ばかりじゃなくて、適当に付き合える顔見知り程度の人間関係って、必要なんだなって。
先の事なんて考えないで、今、その時、自分が話した事情を、そのまま聴いて、そうなんだ!って、言っちゃえて、それが自分には関係が無い事だから、対策を本気で考えなければとか思わなくていい。そういう人間関係。


軽くて、気が向いたときくらいしか会わないで済むような、友人とか言えるか?って思うような顔見知り。必要だなって思ったよ。
もちろん、そういうタイプだけでも、行き詰まる。
私たちは、今、極端な状況だから安心したい気持ちが強くて、逆にそういうの、怖くて排除したくなってるのかもしれないって思ったよ。



娘は、ああーなるほどねー…分かるけど難しいしーとか言いながらポテト食ってた。






とりあえず、私は娘に、仕事はゆっくり焦らないようにして探すと言えて、なんだか肩の荷が下りたようだ。





緊張感が強いと処方が変わった薬を飲んだら、なんだかしっかり効果が感じられた。


今日、買い物に行く途中まで、なんだかいつもの閉塞感が無いんじゃないか?と、嬉しい気持ちだった。


行った先のスーパーで、急激に頭が脈打つような感じになって、フラッフラッとしてきた。


ああ、これ緊張感が強くなった時、こうなるのか。と思った。


原因を考えながら自転車を走らせていた。
特別意識しているつもりはないけど。
ホームセンターに行った時は、なんともなかった。
なんだかいつもと違う感覚で、楽って凄いなと思いながらペットコーナーを見ていたくらいだ。


スーパー…だな。
家族や夫婦で買い物に来ている様子。


それを見ていると、惨めになるとは自覚していた。


そうか、スーパーは…自分が欲しいけど手に入らないものが溢れているんだな。





しばらく、できるだけ、行かなくてもいいようにしてあげようかな。




家に着いて、すぐに頓服を飲んであげた。





そんなこと。
その程度。



そうやって、周囲の空気を読んでは同調し、私は自分をどれだけ傷つけてきたんだろう。





出来るときだけでも、傷つかなくて済むように。




気を使ってあげられるかな。





むつかしいな

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